エストニア視察記~世界最先端の電子国家、エストニア。電子政府がひらく世界を実感~

 
 神戸経済同友会国際委員会の視察で、9月2日から7日の5日間、現在、世界的規模で今注目されている電子立国を見に行こうという目的で訪問した。
 エストニアはバルト海とフィンランド湾に接する北欧の国。バルト3国の最北端に位置し、西はバルト海、北はフィンランド湾に面している。国土面積は北海道の6割程度。ヘルシンキまでは飛行機で30分、フェリーでも2時間。東側はロシアと国境を接しており、1991年に現在の独立国になる前はソ連に併合されていたが、今はEUとNATO加盟国。
 首都: タリン
 通貨: ユーロ
 人口: 131.6万 (2017年)
 首都 タリン,Tallinn,41万7884人(1997)
 独立年月日 1991年9月6日、ソビエト連邦より独立
 民族 フィン系エストニア人65%,ロシア人28%,ウクライナ人3%
 言語 エストニア語(公用語),ロシア語
 国民総所得(GNI) 233億6822万6502米ドル(2016)

 首都タリンの旧市街は、外側を石造りの城壁に囲まれており、門や城塞が残り、ヨーロッパ屈指の歴史地区となっている。その美しい城壁のなかに、電子立国を見た。
 世界遺産の街並みのなかにある最新電子立国。この国づくりが少子高齢化で閉塞状況に悩む日本にとっても重要な参考材料であることは間違いない。今年1月、安倍晋三首相が、東欧6カ国歴訪のなかでエストニアを訪れ、日本とエストニアの二国間関係強化に言及していることからもその重要性が理解できる。
 私が注目したのは3点である。一つは、スタートアップ企業の支援という国家プロジェクト。スカイプを生んだエストニアが、第二のスカイプをどのように育てているのか。
二つは、日本ではマイナンバーカードの普及に苦しむ中で、エストニアがなぜ99%もの普及率を成し遂げたのか。三つは、ブロックチェーンの可能性である。

⑴ スタートアップ企業支援
 玉石混交するシーズを適切に大企業へ誘う支援は相当難しいのは、エストニアも同じである。大きく育てば、米国資本を求めて移転してしまうという虚しさも味わっているようだ。ただ、日本との違いは、スタートアップ支援のその前提の子どもの教育ということについて、デジタル・リテラシー教育を目指していること、子どもが将来に夢をもてるような国の目標が明確で、生きるための理念、道徳を根本に据えていると感じた。 
⑵ マイナンバーカードの普及
 ほぼ日本もエストニアと同じシステムを導入している。しかし、全人口が神戸市くらいの大きさであるという絶対的な規模の差異がある。
 エストニアでも、銀行預金口座との紐付きも任意だ。しかし、国民は、結婚・離婚と不動産取引など公証人がかかわる事務以外のほぼすべての公的手続にカードを利用している(現実には窓口受付も存在するが手数料が電子に比べて高くつくように設計されている)。自動車の売買も登録し、代金額もすべて登録される。便利な反面、情報は政府に記録される。民間企業もそれを利用できる。たとえば、バス会社が無料券を配布したいので住所があっているかどうかチェックしたいとアクセスし、確かに居住しているかどうかの有無の確認を求めることもできるらしい。
 しかし、日本と違うのは、日本が、このマイナンバー制度をまず個人情報保護法の特別法であるという入り方で国民に説明したことだろう。まず企業に個人情報保護の特別法としての番号法をうたった。ほんとうは、自分の個人データを政府や自治体がどのように利用しているかまですべて閲覧できるのだ、紙ベースで政府や自治体のやり取りが全く見えていないという今よりもかなり国民は安心であり、そして何より政府や自治体の行政サービスがアップし、経費も大きく削減できるのですといえばよかったのではないか。
 ただ、日本は、サイバーセキュリティ対策に予算を講じていないとか、システム稼働に自信がなかったのだろう。ほんとうに透明化することも自信がなかったのかもしれない。そういった政府の自信のなさがエストニアと異なる結果に導くことになったのではないかとも思われる。IDカードに写真を添付しなかったのも大きいような気がした。
 そして本当に大切なことは、民間企業と公務員の見事なコラボであろう。同じ目標に向かった政府と民間企業が、電子政府の実現をひとつの事業として、必ず成功させるミッションとしてかかわっていることの強みを強く感じさせた。
⑶ ブロックチェーン
 今後、ブロックチェーンが普及することは間違いないだろう。仮想通貨の関係でもそれは確信した。すべての取引や履歴が明らかにされ、改ざんを許さない社会になっていく。日本でも、教育にこれを取り入れれば、期末テストで一回査定をするよりも、日々の勉強過程をチェックすることで試験をなくせるという報道もあったが、まさにそういう社会になるだろう。しかし、感じたのは、やはり人間が入力するということだ。そこに改ざんに余地を残したときに、どうしても不正は免れない。不祥事はなくならないのだろうなという予感をもった。












在エストニア日本大使館でのレセプションに出席する機会も得た。世界遺産の中心の古い建物での大使館主催のパーティでのエストニア経済大臣のあいさつは、静かな古い街並みのなかにある真新しい電子立国という国づくりの在り方そのもののように、素朴で、かつ、力強いものであった。

 

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