司法試験を目指す受験生の皆様へ(9)~頑張ってください~
1 司法修習生の意識格差
(1) 司法修習生の意識
司法試験受験生の意識は、そのまま司法修習生の意識につながっています。彼は、予備試験を合格したから。彼女は、基礎的な力をしっかりとつけて、優秀な成績で合格した人だから。そういう意識のままで司法修習にはいります。OJTにつながる「線」教育を本来とするのですから、司法試験合格を果たしたあとも、司法修習時代に、あらためて基礎的な勉強をしなおして、今度は、優秀な成績と評価されるようになっていかなければならないのです。そうしないと、実務家になったときに仕事ができていかないからです。
基礎能力をしっかりとつけて、司法試験をきちんと「解いた」人たちは、さらに上を目指して勉強していくようです。基礎力があれば、司法修習にはいっても、実務家である裁判官や検察官、弁護士とひととおりの議論ができますし、そのなかで、実務の感覚や実務の問題点などを積極的に議論できる基盤があるからです。しかし、「この程度」マインドで勉強してきた人は、そのままの意識で、司法修習に臨んでしまうようです。
(2) 「意識高い系」という意識
「この程度」マインドの人たちは、基礎力をつけてきた司法修習生が、次のレベルである実務家レベルの議論をしたり、実務家の感覚を聴こうと積極的に話しかけたりすると、「彼は意識高い系」だと揶揄されてしまうらしいのです。いったいどうなってしまっているのでしょう。「この程度」マインドが、司法修習にまで蔓延し、そして、それが必然的に実務家のなかでも「蔓延」していくのでしょうか。
2 基礎力をつけて合格する
(1) 基礎力は司法試験が問うている
弁護士になるための基礎力とは、法律用語の定義を正確に使い、事実を見て、証拠を見て、その事実がいかなる法律効果を発生させる要件にあたるのかを判断する。また同時に相手方の立場にたって、事実を聴いて証拠をみて、その事実がいかなる法律効果を消滅、喪失、阻害するかの要件にあたるのかを判断します。そしてこれらのことから、当該当事者間の権利と義務を分析する。そして、判例など要件発生、要件障害、要件消滅などの規範(基準)となるツールにあてはめて、結論に至るまで、論理的に説明していく力なのです。
司法試験は、短答式、論文式で、このことを問うているのです。
(2) 司法試験の問いに答えることである
基礎力を付けるというのは、司法試験が解ける力を身につけるのと等しいと考えてよいのです。各法律科目において、当事者間の権利と義務の関係を、法律用語を正確に使い、問題文の事実から法律要件と法律効果を見出して整理し、当事者にどういう法律関係が存在するかを明らかにし、それを順に説明する。それが司法試験の問いに答えることであり、司法試験を解くということなのです。
(3) その途中経過で合格すればよい
その力を身につけるために、憲法における国家と国民の権利義務の関係、民法における当該当事者の権利と義務の関係、刑法における国家と被告人の権利義務の関係、行政法における国家あるいは地方自治体と市民の権利義務の関係、会社法における会社、株主、役員、債権者、取引先の権利義務の関係、民事訴訟法における裁判所と原告と被告らの権利義務の関係、刑事訴訟法における警察、検察と被疑者の権利義務の関係、裁判所と検察官、被告人と弁護士のそれぞれの権利義務の関係を考えていきます。どういう場合にどういう権利が発生し、どういう場合にどういう権利が消滅し、あるいは喪失するのかなどを法律にしたがって、その要件、効果を勉強していきます。そのために、その条文の立法趣旨や適用範囲などを検討し、その効果を発生、消滅、喪失等させる要件についての「規範」(基準)を勉強していくのです。
そして、その基準をあてはめて司法試験の問題を分析していくのです。なるべく正確に分析し、事実をくみあげて規範にあてはめ、その適否を判断するトレーニングをしていく。そして、それを説明し、文章として表現していくのです。その勉強を積み重ねて行くことで、問題が解けて行く。司法試験の問題がわかってくる。問われていることがわかってくる。そして、書くべきことがわかってくる。こういう勉強と積み重ねて行く過程のなかに合格があると思います。そして、その先に司法修習があり、実務家のOJTがあるのです。だから、完璧にできなくてもいい。途中経過で合格するはずなのです。この程度でよいとか、無益的記載事項だからいろいろ生の事実を拾い上げようとか、そういった小手先のことを考えるのではありません。ただひたすらにこの勉強を続けて行くのだ。そして点として合格すればよいのだと思うのです。
3 頑張ってください
非常に辛辣に書きましたが、何かひとつでもひっかかってくれれば、ありがたいです。もし、具体的には、どういうことか話してくれという方がいましたら、声をかけくれれば、いつでも具体的に指導させていただきたいと思います。
基礎力がある法曹として活躍してほしい、それが私の願いです。
しんどい勉強から逃げず、夢に向かって頑張ってください。
2018.9.17
(井口寛司)