新年のご挨拶

 新型コロナウイルスは次々と変異を遂げ、依然として脅威は続いております。ただ、社会の基盤部分では、確実に持続可能な社会に向けた価値転換が高まってきていると感じます。

 昨秋、映画「MINAMATA」を観ました。米国人フォトジャーナリストであるユージン・スミスが水俣病を取材し世界にその悲惨さを伝えていくという実話に基づく物語です。このなかで、チッソ社の社長がユージンに、被害者は「ppm にすぎない」という言葉を吐きます。辛辣な言葉ですが、右肩上がりの時代には、立法も行政もそして司法も、この「ppm」を無視した合理的で標準化した社会を目指してきたのは事実であり、これはこれまでの社会の価値観を端的に表したものだと思いました。しかし、人間が生身の動物である限り、そもそも個々に異なった身体や思想や人格をもっており、ダイバシティは当然の基盤です。これまでの行き過ぎた「一般社会通念」という基準、その一般を拡大したにすぎない「公共」重視基準を今後も貫くことは、将来にわたる人間社会の持続を困難にする。この危機感が「持続可能な社会実現」という思想に繋がっていると理解しています。

 女性、LGBTQ、障がい者、精神疾患を抱えた人、非正規労働者、要介護者、子育て世代、刑事事件等被害者、そして飲食事業、過疎地、地方など。微小と評価される「ppm」をどうやって社会にインクルージョン(包摂)していくのか。国家はもとより、企業や組織がそれぞれに、この思想をもって健全な事業活動を営み、個人がいきいきと健康に暮らせる社会を目指していく。その過程で必ずや明るい時代が来ると信じています。

 そして今、それぞれの個が属する組織がなすべきこと。それは、理念経営、哲学経営を行うことであると思います。近時、パーパス経営などと言われるようになりましたが、自分達の存在意義を全員で共有し、高邁な理想で個々をインクルージョンしてこそ、ダイバシティが体現できると考えます。

 今回のニュースレターでは、ダイバシティ・インクルージョンをテーマにジェンダー、内部告発、働き方、DX改革、外国人労働者問題のほか各種の法改正を取り上げました。

 新春にあたり、ぜひご一読賜り、本年も、わたくしたち法律事務所の弁護士、スタッフに温かいご指導とご鞭撻をいただきますよう謹んでお願い申し上げます。

                                                                           

2022年1月

弁護士法人神戸シティ法律事務所

 弁護士 井 口 寛 司

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