内部通報の体制整備 義務付けへの備え(弁護士 平田尚久)
1.はじめに
令和2年6月12日、公益通報者保護法の一部を改正する法律が公布されました(本記事の執筆時点で施行日は未定です。以下「改正法」といいます。)。この法改正で最も重要な点は、事業者に対して、内部通報に適切に対応するための「体制の整備」を義務付けていることです(改正法第11条)。
※従業員数が300人未満の事業者については努力義務とされています。
2.事業者に求められる「体制の整備」
事業者に求められる「体制の整備」とは、具体的には、内部通報に関する業務を統括する部署や責任者を定めること、内部通報の窓口を設置すること、通報者に対する不利益な取扱いを禁止する内部規定を作成すること、そしてそれらの制度を労働者や役員に周知することなどを指します。
※令和3年4月、消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」は、事業者における内部通報対応体制の整備に関するガイドラインの策定に向けた報告書を公表しました。この報告書には、どのような点に留意して通報窓口を設置・運営するべきか、基本的な考え方が説明されています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000219137
3 内部通報責任者に課せられる義務
内部通報に対応するための「体制の整備」は、ハラスメントへの対応と似た部分があり、実際にハラスメントの通報窓口が内部通報の窓口も兼ねているという事業者も多いと思います。しかし、ハラスメントへの対応と異なる点として、内部通報に対応する従業員には、法律によって非常に重い守秘義務が課せられているということにご注意をいただきたいと思います。
改正法第11条第1項によると、事業者は内部通報の受付や調査などを担当する者(以下「内部通報対応従事者」と言います。)を定めなければなりませんが、この内部通報対応従事者は、正当な理由なく、通報者を特定させる情報を漏洩することを禁止されています(改正法第12条)。さらに、内部通報対応従事者がこの守秘義務に違反した場合、30万円以下の罰金刑の対象とされています。
しかしながら、実際には、この守秘義務を守ることは簡単なことではありません。調査を遂行するにあたっては、通報内容を具体的に関係者に示して事情聴取等を行うことも必要となりますが、通報内容を具体的に示すことが通報者の特定に繋がることもあります。調査にあたっては、通報者から誰にどの情報を開示するか予めメール等で明確な同意を得るなど、慎重な対応が求められます。
4 外部の弁護士への相談体制を
大企業においては、コンプライアンス担当の専門部署を設置し、内部通報の対応について多くの事例からノウハウを蓄積することも可能かもしれません。しかし、中小企業においては、専門の要員を確保することは難しく、実際に内部通報があった場合に判断に迷うことも多いと思います。
事案に応じた適切な対応をとるために、外部の弁護士と適時に連携をとれるようにすることも、必要な体制構築の一環として検討いただければと思います。
(弁護士 平田 尚久)